「靴下食べちゃった」「ビニール食べちゃった」「チョコレート食べちゃった」
よくあります。
対処法は3つに大別されます。
①そのまま様子を見る(勝手に吐く、あるいは、便で出るのを待つ or 毒物なら点滴して希釈する)
②吐かせる
③麻酔をかけて摘出する(開腹手術 or 内視鏡)
獣医師の立場から言うと、③が最も安全かつ確実です。これははっきりしています。
ただ、③には全身麻酔が必要であり、費用も大きくなります。できれば①②で済ませたいという、飼主さんの希望は理解しています。
①②は運に左右されます。ある程度割り切って挑戦する、そんなイメージです。
以下の内容はすべてワンちゃんの話です。
猫さんは異物を食べる子が少ないため、オキシドール・トランサミンどちらの催吐処置のデータも恐らく存在しないと思います。
②異物を吐かせる処置=催吐処置について説明します。
動物病院で行われる催吐処置は2種類です。おそらく、使用率は半々程度だと思います。
a オキシドールを飲ませる 体重にもよりますが10mlくらい飲ませます。
b 止血剤(トランサミン)を急速に静脈内注射する。
a オキシドールを飲ませる
オキシドールは消毒に使う”アレ”です。特別なものではありません。
飲ませることにより、胃の中が泡泡になり、我慢しきれずに嘔吐します。
デメリットとして、嘔吐させた後に胃が荒れることが知られています。
嘔吐が長引く可能性があるので、うちではあまり実施しません。
b 止血剤(トランサミン)を急速に静脈内注射する。
本院ではこちらを採用しています。
血管内に留置針を装着し、急速に血管内に注入することで、副作用として嘔吐が誘発します。
嘔吐後はケロッとしています。1-2時間後には普通に食べることができます。
ただ、デメリットも理解してください。
本来の目的は止血剤です。嘔吐は副作用です。嘔吐の発生機序は不明とされています。
止血剤として通常使用する量は、5-25mg/kgです。一方、催吐処置に使用する場合は50mg/kgです。
催吐のためには通常の10倍量必要です。
2014年アニコム白書の記事の抜粋です。
50mg/kgで使用すると2/2(100%)嘔吐したが、20mg/kgでは1/10(10%)しか嘔吐しなかった、というデータです。
確実に嘔吐をさせるため、本院でも50mg/kgを基本として使います。
副作用としてはてんかん発作様が起こることがあるそうですが、本院では起きたことはありません。
運が良かっただけなのか、発作の発生率は極めて低いのか、どちらの可能性もあると思っています。
トランサミンによる催吐処置は、実際何も副作用がなく、高い確率で嘔吐が誘発できます。
注射後10分以内に2-3回嘔吐し、その後はケロっとしています。
経験的には安全です。ただ、その安全を裏打ちしてくれるデータはありません。
異物の大きさ、患者さんの健康状態等も踏まえ、②催吐処置は慎重に実施しています。
①何もしない、が逆に安全な場合もあると考えています。
2回目となりますが、③麻酔下の処置が最も安全です。